INTERVIEW / COLUMNインタビュー/コラム

SPARCへの期待 ~長野大学 中村英三 学長

素朴な疑問、見過ごしがちな違和感を大切にすることから始めよう

地域での活動、地域への貢献について教えてください。

昭和41年(1966年)に私立大学として開学した本学は、約50年以上の歴史を経て、平成29年(2017年)4月1日より公立大学となりました。とはいっても本学は、地元自治体(旧塩田町)の出資により生まれた大学であり、全国でも「公設民営大学」の先駆けとなりますので、開設当初から地域研究や人材育成などにおける地域貢献を軸として、走り続けてきました。地域貢献は、地方にある大学としては一番の使命です。設置学部は社会福祉学部、環境ツーリズム学部、企業情報学部、大学院では総合福祉学研究科から成ります。
 
公立大学となってからは、さらに地域貢献ができる学びの体系として、初年次から4年次にかけて、地域課題に取り組む「信州上田学」を開講しています。教員が「ため池」「観光」など、地域性を生かした授業を展開したり、地域の方にご依頼して歴史研究を一緒におこなったりと、学生が地域と向き合い、地域に愛着を持ってもらえる機会となっています。

卒業後も長野で暮らしたいという学生の声があるものの、仕事がないということで躊躇する方もいらっしゃいます。その点について大学としてできることはありますか?

確かに、大学生活を通して「この地域で暮らしていきたい」と思う学生は多いものの、「希望する働き先がない」という印象を持ってしまう学生も多いようですね。しかし、実は「地域企業がしっかり見えていない」という面もあるのではないかと考えています。

現在、本学は地元の商工会議所とタイアップしており、定期的に職場体験や、インターンシップ、地元企業の社長さんと対面で話す機会などを設けています。学生がインターネットだけでなく、地元にアンテナを向けて「働きたい」と感じられる企業に出会えるように、サポートしていきたいと考えています。そして地元企業にも、この地で暮らしていきたいと志す若者を積極的に雇用していただけることを、期待しています。

一方で、地元企業の社長さんから人材についてヒアリングしてみると「教養を身に着けた、地域に根を張りたいと考える人物に、ぜひ入社してほしい」という声があります。少子高齢化が進み、人材不足に悩む地域においては、飛び抜けた専門性ではなく、どちらかというと文理問わず広い分野で知識があり、コミュニケーションを通して業務を推進できる人材が求められているのでしょう。大学では、そんなバランスの良い人間性を備えられる教育機会を設けることも必要だと考えています。

各大学ではSPARCを導入される学部はそれぞれ異なります。導入学部の卒業生が、社会で必要とされるのは、どのような教養でしょうか?

本学は、ソーシャルワーカー(社会福祉士・精神保健福祉士)の資格取得を目指す「社会福祉学部」でSPARCを導入します。社会に出ている社会福祉学部の卒業生に、授業への感想アンケートを取ってみて分かったのが「教養科目充実の必要性」でした。「もっと教養を身に着けておきたかった」と話すのです。

卒業生の就職先は、今や介護関係だけではありません。社会福祉士という資格を持った上で、地方公共団体や、厚労省関係、法務省関係で活躍する姿も多くなっています。法務省関係で言えば、例えば少年院の法務教官、裁判所の調査官などがあるなかで、他学部の卒業生と同じフィールドで研修を受けたり、仕事をしたりするうちに、自身との学びや価値観の幅の違いに、刺激を受けることがあるそうです。例えば福祉現場では、制度への深い知識は必須項目。福祉学部と法学部の卒業生と比べてみると、現場の見え方が異なります。福祉の専門性を持っていることは、必ずや強みになりますが、プラスアルファの教養があると、また異なるのかもしれませんね。それは法学的な教養かもしれませんし、心構えかもしれません。さらに、さまざまな専門領域が協力する職場では、チームワークを発揮していくことが求められます。そのコミュニケーションを支える教養も必要だと考えています。

大学が一緒におこなうSPARC。文理横断型のオンデマンド授業で得てほしい教養はありますでしょうか?また、「問題解決型学習」通称PBL(Project Based Learning)では、3大学の学生が同じチームとなり活動します。どのようなチーム活動や場になることが理想でしょうか?

まず、学問の枠組みを超える教養を得てもらえればと思います。大学では、学部を決めて入ったら、他の領域を超える機会は少ないものですが、他の学問へ興味を持ってもらえれば嬉しいですし、所属する学部の知識と掛け合わせてもらえると、視野が広がるのではないでしょうか?

例えば「繊維学×福祉学」。前長野大学理事長の白井 汪芳先生は、信大繊維学部の名誉教授でもあり、福祉現場での繊維技術の活用を考えられた方でした。もう40年前の話ですが「福祉現場の匂い」を問いに持たれて、私が携わる施設にも視察に来ていたのを覚えています。消臭機能を持つ繊維を発明されて、その繊維を使用したカーテンやマスクを実現させたのです。

そして「法学×福祉学」。先ほども述べましたが、福祉現場、特に児童養護施設などで子どもたちをケアする上で、法律はものすごく重要です。私の個人的意見ですが、参加される信大の経法学部の学生さんには、ぜひ法学からの視点で福祉学を学んでほしい期待感があります。

さらに、今後の福祉現場では「DX」の必要性が増していくことでしょう。その基礎知識も得られると、よりいいと思います。実は福祉の現場は、事務手続きの仕事が膨大です。利用者さんと接する時間よりも、手続きに時間を取られてしまうことで、職員が疲弊してしまう例が多く見られます。人材が志を高く持って現場に出ても、心が折れてしまうような状況では、これからさらに必要とされる領域であるにも関わらず、人材が定着しません。そこをDX化することによって、業務量を圧縮し、利用者へと目を向けられるような仕組みにしていくと、現場はだいぶ変わると思います。

SPARCに期待したいことはありますか?

当たり前にとらわれず、違和感に気付き、周囲に提案ができる自信を得られるといいですね。例えば現場に出た際、今までは疑われることがなかった対象にも、「それはDX化できるのではないか」などと気づいて、問いを立てて提案できるような、未来を担う前向きさを備えてもらいたいと思います。

また、PBLは、教養で学んだことを生かす場でもあります。学んだことをアウトプットする機会ですので、学生の自信につながるのではないでしょうか。少しばかり負荷がかかっても、チャレンジできる場にする必要があるのかもしれません。PBLによって、学生がどう成長できるのか、楽しみです。

以上

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