INTERVIEW / COLUMNインタビュー/コラム

SPARCへの期待 ~信州大学 中村宗一郎 学長

VUCAの時代にふさわしいVUCAのリーダーシップを身につける

地域での活動、地域への貢献について教えてください。

「日経グローカル」で発表されています「大学の地域貢献度調査」において、信州大学は長年にわたり上位にランクインしております。こちらの評価項目は毎年同じではなく、時代に合わせた指標が予告なしに用いられるにもかかわらず、連続して高い評価があるということは、変わりゆく地域のニーズに合わせながら、非常に幅広い観点で活動ができていると示していただいているのだと思います。分散型キャンパスの特性により、古くから地域との結びつきが強いことも基盤となるでしょう。
 
さらに本大学では、SPARC以外にも県内大学の連携プランを主導していく予定です。令和4年度では長野県の大学進学者のうち、県内に進学する方は19.6%。つまり残りの大部分の方は、県外に進学しているのです。県内大学は規模の大小に関わらず、協力して共存し、充実した学びを提供する機会をつくることによって、県内の若者が県内で学ぶ選択肢を増やす必要があります。

卒業後も長野で暮らしたいという学生の声があるものの、仕事がないということで躊躇する方もいらっしゃいます。その点について大学としてできることはありますか?

学生には、県内の企業や自治体などの仕事を選ぶほかに、自分で0から仕事を作り出す選択肢を持ってもらえるようなサポートをしたいですね。例えば大学の授業で、デザイン思考や論理的思考、アート思考などを取り上げることに期待する声があるのですが、少なくとも、自分でビジョンを描ける力や、起業家精神を持ち合わせてもらう授業の展開があると良いと思っています。自分でビジョンを描く際、おそらく情熱のようなものが伴うでしょう。学びというものは、本来はワクワクする興味や面白さを喚起するもの。授業では「もっと極めてやろう」と情熱を持てる学びを提供し、その感覚を味わってもらえればいいですね。

自ら問いを立てて没頭できる対象が見つかれば、人生を通して追求したいライフワークへとつながることもあるでしょう。おおらかな環境である信州において、学生にのびのびと発想してもらいたい。自分は何に夢中になれるのか、考えてもらえたら嬉しいです。

各大学ではSPARCを導入される学部はそれぞれ異なります。導入学部の卒業生が、社会で必要とされるのは、どのような教養でしょうか?

SPARCが導入されるのは経法学部では応用経済学科、工学部では物質化学科、電子情報システム工学科、繊維学部では先進繊維・感性工学科、化学・材料学科です。必要となるのは、AIに負けない人間性を磨く教養でしょうか。

昨今、人の仕事に置き換えられる存在としてAIの台頭が語られます。AIがデータベースの累積とすれば、人は生み出す存在になれるかどうかが生き残りへの道だと考えます。AIが積み上げてきたデータベースを超えた先で勝負するのです。私は人がAIに負けないものは、希望や情熱などの精神部分だと考えています。精神はAIには備わっていませんから。それらをもとに生み出していくのです。そのため、精神部分を刺激できる教養が必要となります。ハイパフォーマーに共通して見られる行動特性であるコンピテンシーを、きちんと身につけて強化させていくのも重要ですし、そしてコンピテンシーの基本は、教養であるとも考えます。

それら教養は、リベラルアーツと言った方が当てはまるのかもしれません。リベラルアーツとは、生きるための力を身に付けるための手法であり、人を良い意味で束縛から解放するための知識。既成概念から解放されて、自由に生きるための手段を学ぶ学問です。リベラルアーツと言えば、ヨーロッパ中世における基礎的強化である「自由七科」が思い浮かびます。文法、修辞学、弁証法の三学、および算術、幾何、天文学、音楽の四科から成りますが、改めて学び直すのもいいのかもしれません。

大学が一緒におこなうSPARC。文理横断型のオンデマンド授業で得てほしい教養はありますでしょうか?また、「問題解決型学習」通称PBL(Project Based Learning)では、3大学の学生が同じチームとなり活動します。どのようなチーム活動や場になることが理想でしょうか?

教養やリベラルアーツを自分のものにするのは、並大抵のことではありません。オンデマンド授業で習った学問を、社会に出ていくための武器として体得するためには、実践して試すPBLのような体験がマストでしょう。地域に出ていくという意味では、インターンシップも同じように見えますが、就職活動におけるインターンシップは、学生がお客さんのようにならざるを得ない側面があると思います。PBLでは、より社内に踏み込んで、一社員のようにプロジェクト参加できるような仕組みを作れるといいですね。ワクワクする感覚は、お客さんでは持ちえません。

また、地域を舞台にするということは、地域が持つ気候や自然、強みとなる業界、文化なども見えてくるということ。例えば信大では、「水循環社会の実現により、世界中の人々の生活の質(QOL)向上に貢献」をテーマに、アクア・イノベーション拠点として、世界の水事情を解決する研究も進めています。山紫水明の地である信州にある大学として、水の研究が進むことは理にかなっています。教養を知ることで自分の興味を見つけられますが、地域を知ることで地域を活かす術を知ることができます。それによって地域の起業家精神が育まれるのです。

さらに今回連携いただく2大学は、福祉の分野で強みがあります。福祉は、暮らしや人に密着する学問。信大にはない学部ですので、信大生には新しい視点を得てほしい。大学の使命は、ウェルビーイングを地域で叶えること。学生も、自分のことだけでなく、他人のこと、地域のこと、未来のことを慮ることができたらいいですね。

SPARCに期待したいことはありますか?

昨今は「VUCAの時代」と言われています。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取っていて、未来が予測困難な時代を指しています。そのようなVUCAの時代において、私は「VUCAのリーダーシップ」が必要と考えます。「VUCAのリーダーシップ」とは、私の見解から作り出した造語です。Vがvitality〈バイタリティ〉、UがUnderstanding(理解)、CがCompassion(共感)、Aがaltruistic(利他)としています。これらは、未来が予測困難な時代においてチームや社会を動かす際に必要な力。VUCAのリーダーシップを得られる授業展開を期待しています。

本事業の愛称「SPARC」は、CとKでスペルは違いますが、英語の「SPARK」には刺激する、誘発する、火花、活気などの意味があります。まさに学生には、SPARCを通して、自由な発想を可能にする想像力、創造力を得ていただき、周囲に共感を呼び起こすリーダーになっていってほしいです。

以上

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