SPARCへの期待 ~佐久大学 堀内ふき 学長
失敗が許され、チャレンジがリスペクトされる学びの場づくり
地域での活動、地域への貢献について教えてください。
昭和63(1988)年に短期大学から始まった佐久大学は、平成19(2007)年に大学認可され、1年後には看護学部が開設されました。以降、毎年卒業生の8割ほどが長野県内に就職し、県内や、地域医療先進エリアとも呼ばれる佐久市において、看護の質の向上に貢献できていると自負しています。また、専門性を高めた助産学専攻科や、医師と協力しながら診療の一部を担う診療看護師(ナースプラクティショナー)を育成する看護学研究科も設置したことで、卒業生たちは地域・臨地の場から頼られる存在として、さらに活躍の場を広げています。
令和3(2020)年には人間福祉学部を開設し、保健・医療・福祉の幅広い領域を、包括的に学べる環境が整いました。人間福祉学部では、精神保健福祉士や社会福祉士資格取得を目指して、ヒューマンケアの力を身につけながらも、地域に出て必要とされるマネジメント力や、課題解決力を身に着けてほしいと願っています。
卒業後も長野で暮らしたいという学生の声があるものの、仕事がないということで躊躇する方もいらっしゃいます。その点について大学としてできることはありますか?
SPARCを授業へ導入する人間福祉学部においては、令和7(2025)年に初めて1期生が卒業しますので、さらに就職支援に力を入れていきます。人間福祉学部の卒業生が地域に溶け込み、生活の基盤を作り、地域に定着する可能性を広げてもらえるように、大学としてもサポートしていくつもりです。特に地域の医療連携においては、ヒューマンケアの専門職能の必要性をもっと広めていくことも重要であり、専門職能を生かせる土壌が整うように働きかけたいと考えています。
人間福祉学部の1年次には、コミュニティ・ベースド・ラーニング実習において、学生が地域へと飛び出せるような機会を設けています。専門職同士だけでなく、地域住民との関係性を構築する経験を積むことができるうえに、地域課題を発見して解決策を見出すことで、学生に職場としての地域を知ってもらうことができます。テキストに書かれていない地域住民の声をリアルに聞くことで、社会の現状が見えてくることでしょう。定められた制度の枠組みだけではケアに限界があることを知り、その中で困っている人々に福祉サービスをどう組み立てていくべきか、想像力を養う機会にもなっています。
各大学ではSPARCを導入される学部はそれぞれ異なります。導入学部の卒業生が、社会で必要とされるのは、どのような教養でしょうか?
福祉や医療の現場では、レッテルを貼らずに、目の前にいる人をしっかり見てサポートできることが重要です。その助けとなるのは、状況や背景を踏まえた想像力でしょう。これらの力を培えるような教養を得られるといいですね。
例えば孤食になると、健康と要介護の間の虚弱な状態である「フレイル」になりやすいなどと言われます。しかし、一人で動くことが好きなゆえに、一人で食事をしている方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか? 一般的な定義が、目の前にいる人に必ずしも該当するかは分かりません。こちらで決めつけて、理解をしたつもりになってはいけませんね。
また、看護では患者さんが「足が痛い」と訴えて外来に来た際、その症状だけでなく、その原因を探る必要があります。「患者さんの日頃の生活はどのようなものか」と聴き取る際に、地域を知っていることは大いに助けとなります。農業に従事する際の腰の痛さや、地域に色濃く残る食習慣などにも想像を膨らませます。
福祉でも同様で、より社会や家庭の環境などが考慮する必要を秘めています。しかし、日頃の生活に馴染んでいるだけでは、残念ながらその領域への想像力が追いつかないことも多いのです。
大学が一緒におこなうSPARC。文理横断型のオンデマンド授業で得てほしい教養はありますでしょうか?また、「問題解決型学習」通称PBL(Project Based Learning)では、3大学の学生が同じチームとなり活動します。どのようなチーム活動や場になることが理想でしょうか?
PBLでは「人」という存在の複雑性を知って、それを互いに認め合える機会となるといいですね。人は一つの面だけではありませんから、すべてを理解するのは難しいものです。まずは分かっていないことを認めることが必要となるでしょう。
例えば自分より年上の人をケアする際、その人の年齢になったことはないですし、同じ体験はできません。それゆえにケアされる方の気持ちや状態を、完全に汲み取ることは難しいものです。分かったつもりになるのはいけません。その上で、実践の中でいくつもヒントを得て、それを自分の中で噛み砕いてみましょう。そのままでは次のケアの役に立たないかもしれませんが、その経験を積み上げて、自分のものにしていきます。
現在看護学部では、チームで課題を解決していくプロジェクト学習をおこなっていて、人の相互理解の機会となっていると思います。同じ課題に向き合うとき、さまざまな視点があることに気づきます。それぞれの意見を耳にするたびに「ハッ」とする気づきもあれば、逆に「どうしてここに気づいていないの」みたいなもどかしさもあって、そこでディスカッションしていくのです。お互いの視点を尊重することができれば、自分の視点から意見を述べることへの遠慮も薄れていきますよね。そして意見がぶつかり合うからこそ、関係も深まりますし、成長できるのです。
さらに、そのような演習は、失敗が許される環境であるべきです。PBLも、怖がらずに挑戦できる、ぜひ失敗が認められる場であってほしいです。学生には「失敗はOK」と必ず伝えてほしい。社会に出れば許されない環境が多いものですので、大学生の今のうちに失敗してみてほしいです。人間は失敗するのが当たり前だという前提を知ってほしいですし、失敗した方がたくさんの学びがありますから。
SPARCに期待したいことはありますか?
まず、人間福祉学部の学生にも、マネジメント力を持って活躍する人材となってほしいです。病院でいうと医師や看護師、薬剤師、それからソーシャルワーカーなどさまざまな専門職能で構成されるチームをまとめる存在として、力を発揮できるのではないかと考えています。また、さまざまな専門職能が集まるチームの中で、専門職能の一員を担うのであれば、自分の意見を持っていないと働けません。それゆえに思考する力、自分の意見が言える力、そして相手の専門職能だけでなく、人間性を考慮したコミュニケーション力を得られることを期待しています。
以上